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浮雲アーカイブ

これまで「日本近代評論を読む会」を27回続けてまいりましたが、

主催者の美津島さんが諸事情で同会を継続していくことが難しくなりました。

そこで会の名称を「文学カフェ・浮雲」として、装い新たに再出発することにいたしました。

また、私・兵頭新児が主催を引き継ぐことになりました。

どうぞよろしくお願いいたします。

「浮雲」としては第1回ということになりますが、これまでの志をそのまま受け継ぐべく、

「第28回」からのナンバリングとさせていただきます。

第28回 文学カフェ・浮雲

・実施日時:2018年11月11日(日)正午~2時30分

・テキスト:佐々木敦著『ニッポンの文学』(講談社現代新書・860円)

・レポーター:上田仁志さん

 内容としては70年代から現代に至る「文学」が解体され、サブカルチャーの中に溶解していく過程について述べたものであり、著者の「文学」という権威への対抗意識に共感すると同時に、そのサブカルチャー自体がオタク文化にとっては煙たい権威であるという、いつもながらのアンビバレントな読後感を持ちました(笑)。
 もっとも会そのものは、どちらかといえば本書をとっかかりに雑談に興じるという、今までと比べていい意味でユルいものになり、飛び入りの参加者もあって、賑やかなものになりました。
 レポーターの上田仁志さん、そして参加をしてくださったみなさまに感謝いたします。

第29回 文学カフェ・浮雲

・実施日時:2019年1月13日(日)正午~2時30分

・テキスト: 小谷野敦『現代文学論争』(筑摩選書)

・レポーター:後藤隆浩さん

 本書は、1960年から2003年に至るまで文壇をにぎわせた十七の論争を、その背景も踏まえながら、緻密かつ克明に、しかもわかりやすく紹介し、ところどころに著者本人の辛辣な感想をはさんだ、読みごたえのある本です。
 若い文学読者にとって価値ある参考文献の一つになるという印象を持ちました。

 レポーターの後藤隆浩さん、そして参加をしてくださったみなさまに感謝いたします(ワタシは、またしてもちょっと遅刻してしまいました……)。

第30回 文学カフェ・浮雲

・実施日時:2019年4月13日(日)15時~19時

・テキスト: カフカ/山下肇  , 山下萬里訳『変身』(岩波文庫)

・レポーター:兵頭新児

 ちゃんとした会議室を借りての集まりに、少々荷が重かった感もありますが、作品のよさに助けられ、楽しい集まりになったと思います。

 グレゴールが「虫」に変身することの寓意性について、自在に読み手が解釈できる懐の広さと、そうやっておいて冷や水を浴びせるかのようなオチに持っていく辺りに、随分と意地の悪い作品だなあとの感想を持ちました。

  参加してくださったみなさまに感謝いたします。

第31回 文学カフェ・浮雲

・実施日時:2019年7月21日(日)15時~19時

・テキスト:ミシェル・ウェルベック/大塚桃訳『服従』(河出文庫)

・レポーター:MAKO

 パリの地理、文化、政治情勢などを交えながら興味深いレポートをしてくださいました。

 話題の書というせいもあってか、多数の参加者を迎え、賑やかな集いとなりました。

 「文学としてはどうか……」といった感想も聞かれましたが、小説というよりは批評として、というかむしろ「予言書」としての側面の強い、非常に刺激的な書であったかと思います。

第32回 文学カフェ・浮雲

・実施日時:2019年 10月20日(日)15時~19時

・テキスト:大江健三郎『セヴンティーン』(1961年、新潮文庫『性的人間』所収)と、『不満足』(1963年、新潮文庫『空の怪物アグイー』所収)

・レポーター:由紀草一

 レポートでは、『セヴンティーン』の執筆に影響を与えたと言われているサルトルの『一指導者の幼年時代』についての平明な解説も加えられていました。サルトルのものの考え方、大江作品との比較などが可能となり、たいへん中身のある議論ができました。 

 また、『セヴンティーン』が書かれた頃は、安保闘争、ハガチーデモ、アイク訪日延期、岸首相負傷、『風流夢譚』事件、そして本作品のモデルとなった浅沼社会党委員長刺殺事件と、まことに騒然とした時代でした。この事件からわずか1か月ほど後にこの優れた作品は書かれており、しかも現実のモデルとはまったく違った主人公の造形がなされています。

 この時期の大江の反応の速さと構想力の凄さにいまさらながら感嘆いたしました。この作品は、社会背景とは一応自立した形で、主人公の内面の動きを中心とした表現に徹しており、そこに文学の本質を見る思いがしました。

 また、『不満足』は大人になることを決意した者と、まだ大人になりたくない者との落差が、一種シュールな設定の下に巧みに描かれており、その心理的リアリティが見事です。

第33回 文学カフェ・浮雲(日)15時~19時

・実施日時:2020年2月2日、

・テキスト:宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』

・レポーター:上田仁志

 思春期の少年特有の、親友との別離(自我を確立させる上でのある種の必然)と、

 「本当の幸」という崇高なものを希求する心理とが重ねて語られた、

 「未完の大作」とでも呼べる作品ではないかとの印象を強くしました。

第34回 文学カフェ・浮雲(日)15時~18時

・実施日時:2020年9月27日、

・テキスト:森鴎外『山椒大夫・高瀬舟』(新潮文庫)

・レポーター:汲田泉

 鴎外の歴史小説は、史料に基づき堅牢な文体で過去世界を構成していくところに特長がありますが、その背後に現代でもそのまま通じる人間性を滲ませているところが魅力です。明治期に、本格的に西洋との邂逅を経験し、人間のあり方を根源的に考えた成果がここにあります。

 

 

第35回 文学カフェ・浮雲(日)15時~18時

・実施日時:2021年1月10日、

・テキスト:太宰治「春の盗賊」「新郎」「十二月八日」「男女同権」「トカトントン」

・レポーター:小浜逸郎

第36回 文学カフェ・浮雲

 太宰といえば「典型的な自己破滅型の私小説作家であった」と思われがちですが(ちなみにこのフレーズはコトバンクからの引用です)、そうした過剰な自意識をメタ視点から見据える冷静さ、そこを軽妙に描いてみせる面白さがあったのではないか……というのが小浜さんのお考えであり、事実、上の作はまさにその通りのものであったように思われます。

第36回 文学カフェ・浮雲(日)15時~18時

・実施日時:2021年4月4日

・テキスト:菊池寛「形」「出世」「ある抗議書」「恩を返す話」「三浦右衛門の最後」

・レポーター:瀧本敬士

 菊池寛は同時代の芥川龍之介などに比べて目立たなくなっている作家ですが、実社会の人情を踏まえた短編小説の名手であり、また時代小説に新境地を開いてもいます。この五作からは、彼の鋭い人間観と未だに古びていない問題意識がうかがえます。

第37回 文学カフェ・浮雲(日)15時~18時
・実施日時:2021年9月12日

・テキスト:星新一「白い服の男」「特殊大量殺人機」「凍った時間」

・レポーター:兵頭新児

 星新一は、「思考実験」としてのSF小説を、ショート・ショートという端的に問題意識が示される形式で描いた日本では珍しい作家です。「白い服の男」は、人間の世の中に絶対正義をもたらそうとすると何が起こるか、そして戦後日本的平和主義の異常さも摘出した名作だと感じました。

第38回 文学カフェ・浮雲

・実施日時:2022年2月27日
・テキスト:中島敦『牛人』『弟子』

・レポーター:樫野利一
 『弟子』
は孔子の弟子の熱血漢、子路についての話。両者の関係性は三蔵法師と孫悟空を思わせましたが、中島は同時に『わが西遊記』で沙悟浄を主役にするなど、「ヒーローの活躍をちょっと離れたところから眺めている」とでもいった視点を持っていたのかなあ、といった感想を持ちました。

第39回 文学カフェ・浮雲

・実施日時:2022年9月11
・テキスト:芥川龍之介「地獄変」「邪宗門」「藪の中」

・レポーター:由紀草一

 発表のレジュメを以下に掲載します。
 「地獄変」「邪宗門」と「藪の中」ー語り方と女性観

第40回 文学カフェ・浮雲

・実施日時:2023年2月12日
・テキスト:今野勉『宮沢賢治の真実 ―修羅を生きた詩人』(単行本は新潮社から2017年、文庫版は新潮文庫に2020年に収録)

事前に読んできて頂きたい賢治作品:『春と修羅』(特に「恋と病熱」「春と修羅」「小岩井農場」「マサニエロ」「永訣の朝」「松の針」「無声慟哭」、青空文庫に収録されているので、パソコン上で無料で読めます。)

参考図書:菅原千恵子『宮沢賢治の青春 “ただ一人の友”保阪嘉内をめぐって 』(宝島社1994年、角川文庫2015年)

・レポーター: 濱田怜央

当日発表資料

作家論を取り上げるのは本会としては初めてでしたが、テレビマンが本業である著者が、謎に満ちた賢治作品を、資料の博捜と現地調査に基づいて解いていく姿は、それ自体が推理小説のような興趣に充ちたものでした。中心は賢治本人と、妹とし(子)の独特の「恋愛」ですが、これを踏まえて「銀河鉄道の夜」を読むと、ここに込めた賢治の思いが改めて胸に迫るように感じられました。

第41回 文学カフェ・浮雲

・実施日時:2023年6月11日(日)

・テキスト:阿刀田高著「ナポレオン狂」「来訪者」「恋は思案の外」「趣味を持つ女」

・レポーター:瀧本敬士さん

6月11日、第41回文学カフェ・浮雲を開催しました。
 阿刀田高は、推理ものとも​怪奇ものとも少しずれる、「奇妙な味の小説」(江戸川乱歩の命名)の、現代日本における代表者です。いわゆる文学的な思想より、読者を作品世界に引き込む構成と語り口の腕が問題となります。そこで、「面白い小説とは何か」について、各々から活発に意見が出されて、とても楽しい会になったと思います。ブンガクより、こういうふうがいいのかな、という思いになりました。

  

 レポーターの瀧本さんからの告知文を掲げておきます。

【引用開始】

 2021年に菊池寛作品をご報告をさせて戴きました。

 その時に、私の個人的な好みとして、ストーリーが面白いこと、ストーリーに無理がないこと、結末(落ち)があること(あとは読者の想像にお任せします、はだめ)、等々の要件を挙げさせて戴きました。

 今回も基本的な嗜好は変わっていません。

 阿刀田高自身も、「小説はおもしろくなくてはいけない。私はずっとおもしろさを求めてきた。」と仰っており、その意味では、方向性はそんなにずれていないのかなと思っています。

尤も「ただそのおもしろさは多種多様である。」と仰っていますので、参加者各位がどういうものを面白いと思われるかについては、何とも言えないところです。
 また、今回も短編を対象にしています。長編は好みに合えばいいのですが、外れた時、時間を無駄にさせられた、とお怒りになる方もいらっしゃると思いますので、それを避けたいという思いです。
 この点についても、阿刀田高は、短編なら「トンデモナイしろものでも、ーーまあ、いいか。世の中には、こんなこと考えて書くやつもいるんだなーーと許容することができる。」と仰っており、今回選んだ作品をつまらないと思われても、まあ、いいか、と許していただけるのではないかと思っています。

 ということで、今回取り上げる作品は、上記の通りです。
 なお、これらの作品は、集英社文庫『遠い迷宮』にもすべて所収されています。

 ただ、『遠い迷宮』は古本或いはKindle版でないと入手が難しいようです。

 

 作品そのものは短いものですし、特に何かを訴えるというものでもないので、さらっと紹介しておしまいという感じになると思います。 

 時間稼ぎのために、阿刀田高の作品執筆に関する考え方や裏話的なエピソードを紹介する予定です。

 それでも時間が余ってしまうかも知れませんので、皆様のお薦めの作品等について語って戴ければ幸いです。

【引用終わり】

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