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 文学カフェ・浮雲

   

     浮雲・アーカイブ

3月17日、第41回文学カフェ・浮雲を開催しました。
 
映画「地獄の黙示録」の原作としても知られる「闇の奥」をとりあげました。レポーターの菊地さんからいただいた告知分を以下に掲げまておきます。

【引用開始】

 今回初めて発表をいたします菊地と申します。昨年度まで30数年奉職しました都立高校を定年退職し、現在再任用教員として糊口を凌いでいます。この小浜逸郎さんが始めた会には6年ほど前に初めて顔を出させていいただきました。多摩地区に在住しており、コロナの騒動により3年ほど「リスク」を伴う行動を避ける、というよりも一種の自己懲罰として都心には出ず、自宅と職場に引きこもっていました。昨年4月より再度この会に足を運ぶようになりましたが、その直前に小浜さんが逝かれてしまい、呆然とした日々が続いておりました。生来の口下手のため人前で話すのはなるべく仕事以外は避けたいという気持ちで馬齢を重ねてきたのですが、昨年、由紀さんに今後の会の発表について意見を求められた折、ふと思いつき発表を私の方からお願いすることとなりました。

 さて、今回扱う『闇の奥』ですが、ロシア圧制下のポーランド出身のコンラッドがアフリカで自身が目にした欧米諸国の植民地政策による収奪と破壊を題材に、文明と未開、帝国主義とその基盤にあるヨーロッパ型の理性や合理主義の限界、人間の心理の暗黒面を見事に腑分けした名著として欧米の大学ではCanon(学生が必ず読むべき古典、正典)として読み継がれてきました。原題がHeart of Darknessで定冠詞のtheがついていません。「ヨーロッパ人にとっっては理解不能な絶対的他者である暗黒の中心、闇の心臓としてのアフリカ」「腑分けが不可能な人間の心という
漆黒の闇」(この場合のofは同格関係を作る前置詞)など、題名自体が様々な含みを持っています。曖昧(ambivalent, ambiguous)で非常に難解、様々な解釈が可能ということで主に大向こうを狙った物言いの大好きなリベラル系インテリの占有物にされてきたきらいがありますが、私のような長屋の住人が読んでも様々な連想を抱かせる作品です。生前の小浜さんの言い方を借りれば、グローバリズムという今世紀の新しい帝国主義により、日々の生活、社会、伝統を私たち日本人は破壊、収奪されていす。 「Global Citizen?なんでぇ、それ。けっ!」という気持ちで生きてきた長屋の住民には本当に生きづらい世の中になったと思います。様々な制度や価値観が瓦解する時期を「世紀末」と呼ぶなら、私たち市井人はまた新しい「世紀末」を、芥川龍之介のそれとはまた違う「ぼんやりとした不安」を抱えて生きているという実感があります。19世紀末のスーパーグローバル国家であったイギリスに帰化したエミグレとしてのコンラッドが自分でも手に追えない不安定さを内部に抱えたまま生み出したこの『闇の奥』という作品を今の日本人である私たちが読み返すことで、どんな議論ができるか?そのような漠然とした想いからではありますが、この作品を選び、皆様のご意見を伺いたいと思った次第です。

 なお、当日は、以下のような流れで発表を行い、皆様のご意見を頂ければと存じます。

① コンラッドという作家について(年譜、生涯、作品群について)
② 19世紀末のアフリカと欧米帝国主義(作品との関連で)
③ 『闇の奥』の大まかなあらずじの確認
この3つについて概括的にお話し、
④ 作品の引用を行い、個々の箇所について私見を述べさせていただきます。ここでご意見を頂ければと存じます。
⑤ 附論としてフランシス・フォード・コッポラの Apocalypse Nowについて。『地獄の黙示録』という邦題なんとかして欲しいのですが、先日の由紀さんの言及にもありますので触れないわけにはいかないと思いますし、多分ここで一番ご意見がいただけるのではないかと思い、
私見を述べます。

 

 キストはJ. コンラッド/高見浩訳『闇の奥』(新潮文庫2022年版605円)を使用します。
*岩波版は中野好夫の名訳と謳われており、我々の世代では最初に手にするものですが、何分かなり初期の翻訳で、出版後きちんと改定されたものでもないため、曖昧な箇所、明らかな誤訳、注の不備、誤りが散見します。お持ちの方で一番多いと予想されるテキストですが、発表の都合上、引用は高見訳に統一させていただきます。
*なお、引用に際しては、Dent版かCambridge版、あるいはNorton版の原文も併記するつ
もりです。私自身わからない部分も多数あり、皆様のご意見も伺えればと思います。

 

【引用終わり】
 

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