
言語哲学研究会

シネクラブ 黄昏
< シネクラブ黄昏アーカイブ>
みなさま
前回(10月12日)の「シネクラブ黄昏」は石塚馨子さんのプレゼンでヴィセンテ・アモリン監督「善き人」(原題は’good’。2008年英独合作)を鑑賞し、話し合いました。1930年代のドイツで、ある文学部教授兼作家が、最初はナチスに関心がなく、どちらかと言えば馬鹿にしていたのに、半ば強制されて入党。すると出世して収入も良くなり、若く美しい妻も得る。しかし彼にはユダヤ人の親友がいて……という物語。
石塚さんは、ナチスの側でも迫害された側でもなく、周囲にいて巻き込まれた人間を描いた作品としてこれを取り上げたのだと語りました。その種の映画としてはルキノ・ヴィスコンティ監督「地獄に落ちた勇者ども」(1969年)やサボー・イシュトヴァーン監督「メフィスト」(1981年)が浮かびますが、それらに比べると非常にわかりやすい。主人公の葛藤が、立場を利用して友人を救おうとするのにまたその立場が邪魔をしてうまくいかない、その一点に集約されているからです。これを通じて、普通の人間並みの欲望や弱点を抱えながら、まずまず善良な人間が、心ならずもナチスの協力者となる、その恐ろしさはよく伝わってきました。
少し気になることを加えます。主人公がナチスに目をつけられたのは、自作の小説で安楽死を描いたものをヒトラーが読んで感心したからだ、と政府高官に最初言われます。彼自身がこれを完全に肯定していたわけではなく、認知症になった母親が自殺しかかったのを止めています。しかし彼の著作は、間接的にでもナチスに利用されなかったのでしょうか。実際、主に障碍者を対象とした強制的安楽死政策T4作戦は実行されています。その責任は一般人が負うとしたらあまりにも重く、直視しがたいものですが、それをも我々に突き付けたのがつまりナチスと呼ばれる政治活動なのです。この映画がそこまでは踏み込まなかったのを残念に思うのは、望蜀の嘆というものでしょうか。
次回は以下の要領で開催します。
記
1 期 日 令和8年3月15日 午後1時30分開場 午後2時開演
3
2 場 所 きゅりあん 4階 第2グループ活動室
〒140-0011 東京都品川区東大井5-18-1 電話03-5479-4100 FAX 03-5479-4110
アクセス : JR京浜東北線・東急大井町線・りんかい線 「大井町駅」 徒歩約2分
京浜急行線 「青物横丁駅」 徒歩約15分
3 プレゼンター 田幸 正彦
4 会 費 1,000円(当日徴収)
