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日本人のドイツ表象・発表レジュメ 年表付き
弘中 努
日曜会・政経研えん 2025(令和7)年2月9日 於・飯田橋ルノアール
テキスト:『膨張するドイツの衝撃-日本は「ドイツ帝国」と中国で対決する』西尾幹二・川口マーン惠美 共著
(はじめに)
まず、共著者のひとりである西尾幹二先生が昨年11月1日にご逝去されましたこと、心よりお悔やみ申し上げます。
さて、今回のテーマは「日本人のドイツ表象(イメージ)」です。ただ、ドイツの「哲学」「文学」「音楽」「映画」などなど文化的なテーマは関係ありません。
「歴史認識」「環境問題」「移民問題」が中心です。
さて、今回テキストとして選んだ本書ですが、現在事情とのズレも大きいことは確かです。
●出版時点とは明らかに違っている事情(あるいは語られていない事項)
イギリスのEU離脱(ブレグジット)
2016年のTHAAD配備問題に端を発する中国と韓国の関係悪化
日韓リベラルを分断した『帝国の慰安婦』論争
韓国慰安婦団体の信頼失墜
『反日種族主義』など韓国ニューライトの出現による新しい日韓右派同盟
中国とドイツの「力関係」の変化(貿易不均衡など)
中国によるヨーロッパの侵食とヨーロッパ内でのドイツの影響力の低下
メルケルの政界引退によるドイツの影響力・イメージ低下
ロシアによるウクライナ侵攻に伴う、ドイツとロシアの関係の疎遠化
ガザ紛争による、ドイツの「ユダヤ擁護」の揺らぎ
反イスラム右派政党 AfD(ドイツのための選択肢)のドイツ国政進出
ドイツでの不法移民追放が本格的に公論化
ショルツ首相の失政に伴うドイツ政局の不安定化
2度に渡るアメリカ・トランプ大統領の登場
ロシアからの天然資源の輸入減少に伴うドイツの電気料金の爆上がり
ドイツの原発全廃と再稼働の議論
インテル半導体工場マグデブルク誘致と電力不足による設置延期
フォルクスワーゲン一部工場閉鎖など、ドイツ自動車産業の衰退
ドイツにとっての中国市場の赤字化
パンデミックに伴うドイツ航空機産業の衰退
(まだまだありますが、気がついたら追加してください)
上記事項も頭に置いて「2015年時点でのお二人のお考え」と「世情分析」を読み解いてみるのも一興かもしれませんが…今回は本書については軽く流していきましょう。
第1章 ドイツ人はなぜ「日本嫌い」なのか
ドイツのマスコミが日本に対する「優越感」を味わいたいがためにイメージが膨らんだ? 現在もほとんど是正されない現実をどう捉えるべきでしょうか? ドイツマスコミの歪みがどこから生じるか? この章に書かれていることは、各種情報から考えてもかなり当たっているように思います。
第2章 戦後は日米が隣国であって日中は隣国ではない
独露関係は、もう違っています。また中国と韓国の間も衝突しています。またアメリカはトランプ大統領の誕生で予測不能な状態になりました。あくまでも2015年当時の認識ということで読むしかありません。
第3章 地球上に広がる「文明の衝突」
ドイツの「反イスラム」の遠因として捉えることはできるかもしれません。
第4章 戦争が異なれば戦後も違う
1990年代以来続く言論戦ですが、一方的な主張が続くところが何とも…。
第5章 難民・移民問題で苦悩するヨーロッパ
2015年以前からある問題で、2025年のいま、ついに爆発に至りました。
第6章 東へ拡大する「ドイツ帝国」の狙い
ドイツは日本を抜きGDP世界3位になりましたが…2020年のパンデミック以来ドイツの国力や国際競争力は低下しています。その原因はいろいろあるのですが、ドイツはもはや自分の力で世界が変えられる力はありません。ただ、2015年当時はドイツの景気も良く、中国との貿易も順調でしたので…。
第7章 原発再稼働か脱原発か
ここは両者、考えが真っ二つに割れています。西尾氏は核武装は必要だが、原発は無くすべきだという考え。川口氏は原発推進派。最近ではドイツでの「電力不足」が深刻化しています。
●本書を離れて考えてみたい問題
(1) 歴史認識問題
『ドイツの新右翼』
[解説]もう一つのドイツ-保守革命から新右翼へ 長谷川晴生 より
もともと、「ドイツ」という国に対する現代日本人の平均的な印象には、相反するものが同居していた。一方には「第三帝国」の、あるいは多少の事情通にとってはプロイセンやドイツ帝国の「軍国主義」や「人種主義」のイメージがまとわりついている。もう一方にあるのは、まさにそのような過去を批判的に見直すことに熱心で、国民社会主義(ナチズム)による犯罪をみずからの手で裁き続ける、戦後の国際社会の優等生というイメージである。
同じく旧枢軸国である日本の政界で、植民地支配や戦争犯罪に対する歴史修正主義が現れるたびに、それを肯定しない立場の人々は、ドイツ連邦共和国に範をとるように求めてきた。反対に、保守派は、両国の過去の差異を強調し、ドイツの基準を日本に押し付けるなと主張してきた。「過去の克服」に代表される戦後ドイツのリベラリズムは、日本に羨望と反発とを巻き起こしてきたといってよい。
西尾氏、川口氏はまさにこういった日独の「リベラリズム」と戦ってきました。しかし、それを争った相手の顔がよく見えません。そこを考えてみたいと思います。
●西尾氏と争った敵はどういう層だった? 彼、彼女らの「ドイツ表象」は?
推測が入ると思いますので、ここからはご参加の皆様との討論でいきます。私・弘中は朝日新聞に1990年代に掲載された「ドイツの取り組み特集」が同時期の同紙の「慰安婦問題特集」などとからんでしまい、無数の共感者を読んだことが原因だと思います。
朝日新聞や左翼雑誌の読者でもある1970年代の新左翼くずれの一般人や活動続行中の人間たちがからまり、ベ平連や東アジア反日武装戦線などの反日運動、フェミニズムや入管闘争関係者、新左翼から環境活動に流れた人たちなどが「見習うべきドイツ、見習わなくてはならない日本」などの風潮を形作っていったように思いますが…。
●西尾氏のカウンター活動は効果があったといえるのか?
「新しい教科書をつくる会」の発起人などで、いわゆる「右側ポジション」からのカウンターだった西尾氏ですが…「ドイツ上げ、日本下げ」へのカウンターとして果たして有効だったのかどうか? 「左側からの異論も受け入れても良かったのではないか?」「反日種族主義」など韓国の異論者とも連携しても良かったのではないか?」などあるかもしれません。あくまでも「保守陣営」にこだわり抜いたお二人のやり方は、評価がわかれるところだと思いますが。皆さまのご意見をどうぞ伺いたいです。
●これからどうするべきか?
左翼界隈ではいまだに通用する「ドイツ上げ、日本下げ」。
好き嫌いの問題なのでどうでもいいことかもしれませんが、少しは現状を是正するためにはどうしたらよいか? アイデアを募ることができれば…。
(2) 環境問題
お二人の考えは原発については真っ二つに割れていますが…こちらも日本人の中で「ドイツはSDGs大国。日本は周回遅れ」という認識が定着しています。
●左翼はどうしてそう思いたがるのか?
ドイツでは風力発電が異音がするので良くない。中国に製造を奪われ、自然破壊の原因になっている太陽光発電も限界…いろいろな問題が噴出しています。また原発は全廃しましたが、エネルギー不足が深刻化しています。それでも環境については「ドイツを見習え」論がいまだに左翼の方々の間では鉄板認識になっています。なぜなのでしょうか?
(3) 移民・難民問題
西尾氏は1987年には『「労働鎖国」のすすめ』を書き、この時点から「移民No」を訴えてきました。川口氏はヨーロッパの失敗経験を語っていますが…。
●左翼はどうしてドイツを模範と思いたがるのか?
もはや移民・難民の一部を強制送還しないとならないほど切迫したドイツの現状ですが、日本のメディアではいまだに「第二次世界大戦後からトルコを中心とした移民の受入れを進めており異なる価値観を有する人々と共生している」「2015年のシリア難民大量受入れは人道的で素晴らしい(難民の受入れに消極的な日本を引き合いに出しながら)」などの言説が保たれているのはなぜでしょうか?
用意した資料(主なもの)
1.文藝春秋1991年記事「ほら吹き男爵の死」
2.「週刊金曜日」1997年漫画「蝙蝠を撃て」西尾氏の類型化
3.「週刊金曜日」2019年、辛淑玉氏によるドイツ批判記事
4.KOREA BOOM(独語版Wikipediaと翻訳) ドイツも朝鮮戦争で復興していた
5.小熊英二氏による記事コピー「加害と被害の意識の変遷」
6.ティロ・ザラツィン『ドイツは自滅する』について
7.朴裕河氏による「ナショナリズムを越えて」
8.ロイター通信2024年5月9日記事
9.ロイター通信2025年1月25日記事
10.中国の貿易相手国上位

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