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                                                                                                 2022(令和4)年7月10日

                                                                                                                                                                                       日曜会言語哲学研究会 

                                                                                                                                                                                       於・ルノアール四谷店

                                                                                                                                                                                       報告者:小林知行

 

プロパガンダ(A.プラトカニス/E.アロンソン著・社会行動研究会訳)

 

はじめに(開催案内メールを加筆修正)

 本書は1998年に出版された訳書ですが、原著は1992年に「プロパガンダの時代 日常における説得の使用と乱用」のようなタイトルで出版されています。ヒトラー、ゲッペルスが宣伝で、大企業が広告で、宗教者が説教で、どのような技法を乱用して我々庶民をだまくらかしているかということが紹介される一方、著者たちは我々はそこまで受動的でおバカさんではないのではないか、という両面からの考察を加えています。

 また、原題にもあるとおり、我々は日常のなかで妻、子ども、両親、親族、ご近所さん、上司、部下、等の様々なレイヤの他者に対して、その人との連関の密度に応じた説得技法を、意識的であれ無意識的であれ使用しています。 本書は、我々が説得の受容者であり発信者であるという面も意識されるように、スーパーでのコーンフレークを巡る子どもと母親のやり取りのようなごくごく身近な話題を織り交ぜながら論を進めていきます。

 そのなかで、我々が使用したり悪いひとたちが乱用したりしている説得のテクニックについて、サブリミナル、ヒューリスティック、自己説得、鮮明で個人的な訴求、プロタゴラスの二面的メッセージ、恐怖アピール、グランファルーン・テクニック、罪悪感、返報性の規範、ドア・イン・ザ・フェイス、フット・イン・ザ・ドア、などの社会心理学を中心とした術語による解釈が紹介されていきます。因みに、本書ではサブリミナルの効果について懐疑的な姿勢を取っています。確かに最近聞かないですよね、サブリミナル。

 なお、持ち時間の関係上、今回は通例行っている課題書からの抜き書きはせず索引形式になっていますので、都度課題書のページを繰りながら内容を確認出来ればと存じます。本日はそれらの確認をすることで前提知識をある程度揃えたのちに、コロナ禍や宇露戦争における説得の使用と乱用について皆さまと議論出来ればと考えております。残念ながら、当方にて試論を纏めることは時間の関係上叶いませんでした。やはり大風呂敷は広げるものではないです。

課題書内容の索引(カッコ内は頁)

 プロパガンダの時代がいつ始まったのか(8)

 古代ギリシア、ローマにおける説得について(10-12)

 ウォルター・ディル・スコットによる学習理論の基本原理(反復、強度、連合、巧妙さ)(25)

 ペティとカシオッポによる説得の道筋(周辺ルートと中心ルート)(32-33)

 レオン・フェスティンガーによる認知的不協和理論(38)

 認知的不協和理論で解釈する戦争時の宣伝(43)

 新しいレッテルを考え出すという宣伝方法(53)

 的確な質問をすること(71)

 ノーマン・メイラーによる事実もどき(factoid)という言葉の発明(82-83)

  • factに「…のようなもの」を表す-oidを付けて「雑誌や新聞に現れるまで存在しない事実」

 マーク・トウェインによる格言と事実もどきが説得力を持つ理由(87-89)

 スーパーマーケットでのラケルと母親の口論に見るヒューリスティックの用法(133-135)

 政治的正しさ(PC : Political Correctness)(137)

 ヒューリスティックによる判断が行われるとき(139)

 自己説得(141-146)

 鮮明なメッセージの効果(147-155)

  • コロナ禍における志村けんの死

 ゲッペルスのプロパガンダのやり方(158)

 プロタゴラスによる二面的メッセージ(174-175)

 恐怖アピールの紹介と著者の見解(185-192)

 グランファルーン・テクニック(193-201)

  • ヒトラーの「アーリア人種」とプーチンの「キエフ・ルーシ」と本邦の「万世一系の天皇の赤子」

 罪悪感による説得が効果をもつ理由(205)

 返報性の規範(208-210)とドア・イン・ザ・フェイステクニック(211-212)

 フット・イン・ザ・ドアテクニック(212-215)

 希少性の心理と幻の神秘(219-227)

 サブリミナル知覚とカクテルパーティー現象(234)

 サブリミナル説得に対する著者の見解(238-239)

 子供向け広告と番組に対する子どもの健全な懐疑主義(242)

 接種効果(247-250)

 情報戦略の無効性(257-260)

 検閲が奨励されるとき(262-263)と偏向報道の真実(263-266)

 カルトの教祖になるための7つの方法(278-289)

 アイスキュロス「オレステス」におけるオレステスの裁判(302)

 説得行為の道徳性と倫理性の判定について(303-309)

  • 道徳性の判定基準:目的達成に成功したかどうか(「裏切者」と「愛国者」、勝てば官軍負ければ賊軍)

  • 倫理性の判定基準1:目的を評価することで説得行為の倫理性を判定する(≒目的が手段を正当化する)

  • 倫理性の判定基準2:情報の送り手が採用した手段によってその行為を判定する

  • 倫理性の判定基準3:選択した説得術がわれわれの信念や行動の質を決定する

 

コロナ禍についてお話ししたいこと

 皆さんが引いている事実と事実もどきの境目について

  • 新型コロナウイルス(Covid-19)の存在

  • 新型コロナウイルスの感染ルート(エアロゾル/飛沫)

  • 新型コロナウイルスの毒性

  • 交差免疫の存在

  • 行動変容をソフト強制する各種社会政策・公衆衛生対策群の効果

    • クラスター感染封じ込め

    • 飲食店の営業自粛

    • 病院/養護施設の面会謝絶

    • 学校臨時休業

    • アベノマスク配布

    • マスク着用

    • 非接触型体温測定器

    • アルコール消毒

    • ワクチン接種の有効性(既往症者のみ/老齢者のみ/成人2回/成人3回/未成年/乳幼児)

    • 内服薬の有効性

    • 感染対策アプリ

    • 新型コロナワクチン接種証明書/アプリ

    • アクリル板

    • ソーシャルディスタンス

 当事者以外がグランファルーンを作り出し祭り上げる所作について(エッセンシャルワーカー)

 年代別行動変容政策が検討対象ともならなかった要因について

 

宇露戦争における説得の使用と乱用

 2月24日プーチン演説における侵攻の正当化論理

  • グランファルーン・テクニック

    • ソビエト崩壊後西側諸国からの脅威に晒されている祖国というメッセージを多用

    • NATO東方拡大に対する自衛

  • 恐怖アピール

    • ユーゴ、イラク、リビア、シリアなど周縁国の顛末を紹介し露もそうなるぞと暗示

    • 大祖国戦争で初動の遅れにより数ヶ月で広大な領土と数百万人を犠牲にした

  • 新しいレッテル

    • ウクライナの体制側にネオナチがおり、その掃討が必要である

    • ネオナチによる侵攻から守るためにドンバスに兵を出す

 ゼレンスキーによる説得技法

  • 恐怖アピール

    • パールハーバーを思い出してください(米議会)

    • ロシアはチェルノブイリ原発を標的にした(日本国会)

  • 鮮明なメッセージの効果

    • 我々は森で、野原で、海岸で、通りで闘う(英議会)

    • 壁を倒してほしい(独連邦議会)

 雑誌や新聞以外のSNSが発信する事実もどきについて

  • ゼレンスキーがロシア投稿を呼びかけるディープフェイク動画

 

安倍晋三元総理の「暗殺」について

  今は喪に服するという気持ちですが敢えて感じている纏まらない論点を書き連ねると・・・

  政治家は民主主義に対する重大な挑戦、言論を暴力で封殺しようとする行為、などのコメントが多いが、選挙中であるためか過剰反応で上滑りの印象。犯人の山上徹也は統一教会信者二世で高額なお布施などで家庭が崩壊し、その後分派のサンクチュアリ教会(銃信仰があるという情報が流れている)に属し、自身の家族が崩壊したことに対する鬱屈を、統一教会の広告塔であった安倍氏に対する憎悪に転換して犯行に及んだというような情報が出ており、課題書の術語でいえば、ズレた新しいレッテル貼りがされた状態に見える。一方で、今回の件を暗殺であると述べる層も一定程度いるが、上記の通り政治的な暗殺は考えられず、考えられるとすればサンクチュアリ教会が犯人を唆して統一教会の広告塔である政治家を狙う宗教的な暗殺であるが、サンクチュアリ教会にしてみれば労多くして益の少ない企てではないか。報告者としては、犯人の動機はこれから明らかになるものの、今出ている情報から考えると動機に釣り合わない被害が生じた非対称型の殺人事件であったと考える。

  事件発生と同時並行して、ひろゆきの無敵の人蔑ろ論、北村晴男、百田尚樹らのマスコミによる憎悪増幅論、落合陽一の集団のなかで善人ぶる大衆論(何れも報告者の勝手な仮称)などが出ている。

  • ひろゆき氏は「米、仏の政治家の警備に比べると、日本の政治家はフレンドリーで良いと思ってましたが、日本も同じになってきたのかも」とコメント。「社会に疎外されたと感じる日本人の多くは自殺を選んできたけど、他殺を選ぶ人が増えるという悪い予想が当たってしまってる昨今。そろそろ、蔑(ないがし)ろにされた人々に向き合うべきかと」とつづった。(7/8 16:47スポニチアネックス)

  • 北村晴男@kitamuraharuo(7/8 16:43)全く同じ事を考えていました。この犯行との因果関係は厳密には分からないが、マスコミの多くが不当に憎悪を掻き立ててきたことは間違いない。これまでの人生でこれほど悔しい事件は無い。引用ツイート百田尚樹@hyakutanaoki (7/8 13:32)今回の事件を引き起こしたのはメディアだ!犯人の背景は不明だが、何年にもわたって「安倍が悪い」「安倍こそすべての元凶」などと報道して、多くの国民に安倍さんに対する憎悪を植え付けてきたメディアの責任は大きい。

  • 落合陽一 Yoichi OCHIAI@ochyai(7/8 13:41)事件は凄惨だし個人に呪詛や暴言ばかりを呟いてたアカウントは急に善人ぶるし,よく回って返る手のひらだなぁ.本当の悪は自覚なく集団の側で善人ぶる大多数.一瞬でも微かでも当事者の背中を押したかもしれないことに罪悪感を抱えて生きてけばいいのに.メディアが悪い? いい加減にしろよ.悲しい.

  北村氏、百田氏と落合氏の論は課題書終盤のテーマと密接に関わっている。先ず、犯人に関するこれまでの情報を正とすると、犯人は統一教会信者二世で高額なお布施などで家庭が崩壊し、その後分派のサンクチュアリ教会(銃信仰があるという情報が流れている)に属し、自身の家族が崩壊したことに対する鬱屈を、統一教会の広告塔であった安倍氏に対する憎悪に転換して犯行に及んだ。憎悪の根源は犯人の個人的な経験に根差している。仮に北村、百田の論がその前提を踏まえていて、その憎悪を増幅させたのがマスメディアであると立論しているとしても、課題書の偏向報道の真実で明らかなとおり、マスメディアはあくまで受容者が好みやすそうな話題を提供しているに過ぎず、安倍叩きを展開していたのもそのような需要層が一定程度いたからであろう。また、マスメディアの外側ではもっとどぎつい罵詈雑言が垂れ流されているのは周知のとおりであり的を外していると言わざるを得ない。

  落合の論は、(当事者として顔出しして発言する自分は偉いという自意識に関するト書きが見えるような言い振りで)マスメディアが流す情報の受容者は集団で、匿名で、無知蒙昧で、卑怯であるという隠れた前提があるように見受けられる。しかし、課題書で紹介されたヒューリスティックなどの術語を参照すれば、庶民は生活のよしなしごとにあくせくしていて、候補者の印象などで政党、候補者を選んだり、投票行動というかたちでの政治参加を降りたりしているのであろう。また、子どもの健全な懐疑主義や説得行為の倫理性を参照すると、確かに大戦時の宣伝やコロナ禍の政官産学による複合的な流れづくりに対して、庶民ははじめはヒューリスティックでまあ正しいのであろうと判断するものの、身近な人の経験談等の鮮明なメッセージの効果に触れることで懐疑し始め、徐々に面従腹背の態度を取ったり、方便で逸らしたりしていく。大戦時の国家総動員もコロナ禍騒ぎも、大衆を統御するプロパガンダは持って数年なのではないか。

  ひろゆきは近代化の流れに棹差して生じるであろうことを訳知りに解説することでインフルエンサーとして大手マスメディア等に露出して新たな食い扶持を得ている。彼の論は犯人が一匹狼型でかつ無差別殺傷事犯であるという新しいラベル貼りに基づいてなされている。報告者自身が未だ整理が出来ていないが、犯人は一匹狼型ではあるが使用した凶器は派手な音がする割には安倍氏のみを傷つけており、無差別殺傷事犯とは異なるように見受けられる。また、「蔑ろにされた人々に向き合うべきかと」という他人事で抽象的な発言が具体的に何を行うべきと考えているのか判然としないが、近代化により蔑ろにされた人は疎外を味わいながらも生活が出来るだけの稼ぎを得、労働の余暇に団結する必要も感じないので匿名サイトやSNSで与太噺を垂れ流すことが出来ている。報告者は詳しくないが、そこにはフィルターバブルで囲い込まれた自身に心地良い言葉の空間が拡がっているのかもしれないが、一定程度の「会話」があり過激な方向に向かうことを宥めるような「世間」も、肌触れ合う現実空間からは幾らか割り引かれるかもしれないが、あるのではないか。彼は自身が開設した匿名四方山話サイトで名をあげたが、蔑ろにされた人々との向き合い方の具体論に踏み込まないのはおそらく、匿名四方山話サイト以上の具体論に入っていくと福祉国家論かパターナリズムや古典保守的な政策の何れかに落ち着かざるを得ないためであろうと推察する。こういった寸止め型の言論に希少性の心理と幻の神秘を感じ一定程度の肯定的な受容層が生じ、そういった実数は多くない層が劣化したアナウンスメントを垂れ流す、現代はゲッペルスの宣伝手法が民営化されたような状況なのではないか。

参考)コロナ禍関連年表(NHKホームページ年表と企業における主な対応)

 2020年1月 武漢で原因不明の肺炎発生と国内で報道

 2020年2月 オーシャンプリンセス号横浜港入港

 2020年2月 感染が拡大している地域への出張禁止、37.5度以上の体温の際は自宅療養

 2020年3月 志村けん死亡、東京五輪延期決定、学校臨時休業

 2020年4月 7都府県に緊急事態宣言、第一波ピーク(11日・644人)、アベノマスク配布

 2020年5月 夏の高校野球全国大会中止

 2020年6月 世界の死者50万人超える

 2020年6月 オンライン飲み会流行(酔っぱらいのおじさんがPC画面に複数並ぶ地獄絵図)

 2020年8月 第二波ピーク(7日・1,597人)

 2020年9月 アストラゼネカ新型コロナワクチン臨床試験を中断

 2020年10月トランプ大統領感染

 2020年11月ファイザー、モデルナが米当局に新型ワクチン緊急使用許可申請(12月許可)

 2020年12月英政府がファイザーワクチン承認、ワクチン接種開始

 2020年12月ファイザーが日本政府にワクチン承認申請(翌2月に承認)

 2021年1月 WHO調査チーム武漢ウイルス研究所調査開始、第三波ピーク(8日・8,045人)

 2021年1月 顧客訪問・来客、出張の禁止、出社率半数以下に制限、20時以降の外出制限

 2021年2月 WHO調査チーム武漢ウイルス研究所調査開始

 2021年2月 3種類の変異ウイルス世界で拡大

 2021年3月 医療従事者の30代女性にアナフィラキシー反応

 2021年3月 1都3県調査でワクチンの安全性信頼していない43%

 2021年4月 「COCOA」アプリ修正

 2021年5月 第四波ピーク(8日・7,244人)、菅首相ワクチン接種1日100万回目標値設定

 2021年5月 モデルナ、米国での12-17歳の臨床試験で有効性96%と発表

 2021年6月 職域接種開始

 2021年6月 萩生田文相学校での大規模接種を推奨せず

 2021年7月 東京五輪開催

 2021年7月 緊急事態宣言地域と蔓延防止等地域で出張などの対応を分ける

 2021年8月 第五波ピーク(20日・25,975人)、抗体カクテル療法開始、重傷者以外自宅療養方針

 2021年10月緊急事態宣言解除

 2021年11月ブースター接種(三回目接種)開始、モヌルピラビル(内服薬)処方開始

 2021年12月モデルナCEO、現在のワクチンがオミクロン株への効果が低くなると述べる

 2022年1月 厚労省、濃厚接触者に発熱などの症状出れば検査せずに感染したと診断できる方針示す

 2022年1月 厚労省、ワクチン接種対象を5歳以上に拡大することを承認する見通し示す

 2022年1月 リモート勤務奨励、会食、出張控える

 2022年2月 第六波ピーク(1日・103,502人)、24日ウクライナ侵攻

 2022年2月 厚労省、5歳から11歳へのワクチン接種を保護者の努力義務から外す

 2022年3月 米ニューヨーク州の保健当局、時間経過で5-11歳のワクチン接種効果が大幅低下する調査結果を公表

 2022年3月 全米でマスク着用義務終了

 2022年3月 ファイザー、FDAに65歳以上への4回目接種を可能とするよう緊急使用許可を申請

 2022年3月 5-11歳への1回目接種5%

 2022年5月 塩野義製薬、開発中ワクチンの12-19歳への臨床試験開始

 2022年6月 入国者数制限を1日2万人に引き上げ、入国時検査を一部免除

 2022年6月 アストラゼネカ、厚労省に事前投与型の注射薬承認申請

 2022年6月 FDA、ファイザー、モデルナのワクチンを生後6ヶ月以降から緊急使用許可、5歳未満にも接種奨励

 2022年6月 勤務形態、会食、出張などに制限がなくなる

 2022年7月 会食に制限ふたたび

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